歯科矯正は矯正にかかる期間や器具のグレードによって、100万円以上となることもある高額な治療費がかかります。そこで気になるのが、矯正治療が所得税算出時の医療費控除の対象となるかどうかです。今回は、矯正治療が医療費控除の対象となるか、その判断についてご紹介します。
目次
1 基本的には医療費控除の対象にならない
残念ながら、ほとんどすべての歯科矯正治療は医療費控除の対象になりません。
1-1 医療費控除の対象となるかの基準
医療費控除の対象となるかどうかの判断基準は、国税庁のホームページで以下のように説明されています。
・一般に、保険のきかない診療(歯列矯正も含む)や、一般的に支出される水準を著しく超えると認められる特殊な材料を使用する場合は、医療費控除の対象にならない
・歯列矯正を受ける人の年齢や矯正の目的などから見て歯列矯正が必要と認められる場合の費用は、医療費控除の対象になる
・容ぼうを美化するための費用は、医療費控除の対象にならない
この記述だと分かりにくいかもしれませんので、もう少しかみ砕いてご説明します。
1-2 見た目を改善する目的では控除を受けられない
国税庁のホームページ上にある「容ぼうを美化するための費用は、医療費控除の対象にならない」という記載は、簡単に言い換えると「見た目をキレイにするための矯正は医療費控除の対象外」ということになります。
つまり、「出っ歯気味なのが気になる」「歯がガタガタになっているのでキレイにしたい」といった、一般的な歯科矯正を希望するケースの多くが医療費控除の対象外となってしまうのです。
そしてこれらの診療は、保険のきかない自由診療ともなるため、全額自己負担で受ける必要があります。医療費控除の対象ともならないのです。
2 医療費控除の対象になる矯正治療は
では、例外的に医療費控除の対象となる歯科矯正治療には、どのようなものがあるのでしょうか。
2-1 機能を改善する目的の治療は控除対象
医療費控除の対象となる診療は、「食事ができないほど噛み合わせが悪い」「先天性の疾患で極度に歯並びが悪く、治すために外科的手術も必要になる」など、かなり歯並びが悪い患者さんへの矯正治療に限られています。
ただ、こうした保険適用の歯科矯正を受けられる人はほとんどいません。そのため、医療費控除の対象ともならないケースが大半です。
2-2 「機能を改善する」の例
具体的には、以下のケースが保険適用の矯正治療として認められています。
・「厚生労働大臣が定める疾患」に起因した咬合異常に対する矯正歯科治療
・前歯3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)に対する矯正歯科治療
・顎変形症(顎離断等の手術を必要とするものに限る)の手術前・手術後の矯正歯科治療
こうしたケースに該当するかどうかは、歯科医師の判断が不可欠です。
相当歯並びが悪かったとしても保険適応にならない可能性が極めて高いので、矯正治療を行ってもらうクリニックで確認してもらうようにしましょう。
2-3 通院費も医療費控除の対象になる
医療費控除の適用対象となった場合は、公共交通機関の利用料金に限り、病院までの交通費も医療費控除の対象となります。
地下鉄やバス、タクシーなどの領収書は、忘れずに保管しておきましょう。
ただし、自家用車利用時のガソリン代や駐車場代は、医療費控除の加算対象外となります。
3 医療費控除を受ける場合の注意点
医療費控除を受ける際には、いくつか頭に入れておきたい点があります。
3-1 歯科ローンなどを受ける場合
歯科矯正は、80~100万円近い高額な治療となります。そのため、一括で支払うことは難しい人も少なくありません。
こうしたときに使える支払い手段が、院内分割と歯科ローンです。
院内分割は患者さんから歯科医院への支払いを分割にする方法です。
歯科ローンは歯科医院が信販会社から一括で治療費を受け取り、患者さんは信販会社に月割りでその金額を返済していく方法になります。
院内分割の場合は、治療費の支払いを毎月していることになり、支払金額の年間合算額が控除対象の金額です。
歯科ローンの場合は、信販会社がすでに一括で治療費を支払っているため、全額が治療開始年の控除対象金額になります。
医療費控除を受けられる期間が長くなるのは院内分割払い、節税効果がより大きいのは歯科ローンと言えます。
治療期間で合算したときに節税効果が高いのは歯科ローンとなる可能性が高いですが、歯科ローンにかかる借入利子については医療費控除の対象外となる点には注意が必要です。
3-2 保険や高額療養費制度利用の場合
高額療養費制度は、健康保険を利用した診療を受けた際に、月間の療養費に上限を設けて、それ以上の支出を国家が負担してくれる制度のことです。
通常の歯列矯正では対象にならず、外科矯正や手術や入院が必要になるケースでのみ対象になります。
高額療養費制度を利用することができるのは健康保険適用診療を受けた場合のみですので、医療費控除の対象となる診療は、基本的に高額療養費制度も利用できることになります。
また、民間保険によって保険料が支払われる場合もあります。
こうした各種の保険制度によって治療費負担が軽減されている場合、受け取った保険料などを差し引いて、実際に患者さんが負担した治療費分に対して医療費控除が付くことになります。
4 医療費控除の対象かどうかは歯科医に確認を
控除の対象となる治療は、お口の機能を回復させるための歯科矯正のみです。
しかし、専門知識がない患者さんにとっては、どの程度の状態であれば「機能回復のための矯正」と言えるのかは分かりにくいところです。
また、収入と治療内容によって、どのような制度が使えるか、またどの程度の控除が受けられるかは大きく異なります。
所得額がそこまで高くない場合は、高額療養費制度を利用することで医療費控除の対象額に届かないこともあります。
まずは、希望している歯科矯正が保険適用治療になるか、そして高額療養費制度を利用できる場合の自己負担額がいくらになるのかについて、治療開始前に歯科医とよく相談しておきましょう。