矯正治療をしている、もしくはこれからはじめようとしている中高生やその保護者が気になることといえば、「治療中でも部活動等はできるのか?」という点です。
基本的には部活動等をしながらでも矯正治療を続けることに問題はありません。ただ相手との接触が激しいスポーツや吹奏楽などでの楽器演奏については、矯正治療を行うにあたりいくつかの注意点があります。
今回は矯正治療と部活動がそれぞれに与える影響や、部活動をしながらでも安心して治療できる矯正装置などをご紹介します。
目次
1.運動部(スポーツ)と矯正治療
運動部、もしくは個人でスポーツを楽しむ場合でも矯正治療はおこなえます。治療の効果に対する影響もそれほど心配はありませんが、ただいくつかの注意点はあるため以下を参考に治療を進めていきましょう。
1-1.矯正装置による唇や頬のケガに注意
スポーツを続けながら矯正治療を行ううえで、最も注意したいのが練習中や競技中のケガです。
矯正治療では一般的にブラケットやワイヤーといった装置を歯の表側に装着しますが、これにより転倒や相手との接触の際に唇や頬を傷つけてしまう機会が多くなります。
またラケットやボールが顔面に当たった際にも同様のことが起こりやすいため注意が必要です。
1-2.コンタクトスポーツではマウスガードの着用を
スポーツの中でも柔道やラグビー、ボクシングといった相手と直接接触する「コンタクトスポーツ」の場合は、治療中にケガをするリスクがさらに高くなります。部活動や個人でこのタイプのスポーツを行う場合は、自身の歯と矯正装置を保護するマウスガードの着用が推奨されます。
スポーツ用のマウスガードは多くの歯科医院で取り扱っているため、気になる方はかかりつけ医に相談してみましょう。
1-3.スポーツにおける矯正治療のメリット
正しい咬み合わせは体全体のバランスを整え、瞬発力や集中力を高めます。そのため一流のアスリートの中には、競技を続けながら矯正治療をはじめる選手も少なくありません。
治療中は何かとわずらわしいことも多い矯正治療ですが、選手としてさらにパフォーマンスを向上させたい場合にはそのメリットも大きいでしょう。
2.文化部(楽器演奏)と矯正治療
文化部の中でも矯正治療で配慮が必要となるのが吹奏楽、とくにクラリネットやトランペットなどの「管楽器」を演奏するケースです。矯正治療と管楽器の演奏には互いに影響しあうことも多いため、矯正治療を受ける際は歯科医と十分に話し合いながら、治療を進めていきましょう。
2-1.装置に慣れるまでは音が出しづらい
楽器に唇を接触させたり、楽器をくわえたりして演奏する管楽器の場合、矯正装置(ブラケット)を装着すると楽器を吹く感覚がこれまでと大きく変化します。そのため装置に慣れるまでは音が出しにくかったり、以前と同じような演奏ができかったりすることがあります。
2-2.楽器を唇に当てると痛い/長く吹けない
楽器に唇に当てて演奏する金管楽器では、装置が唇に触れて痛みを感じたり、ケガをしたりするケースもみられます。そのような場合には、装置をゴムやワックスなどでカバーする処置を行ってもらうと、痛みが軽減できます。
また金管楽器では装置によって唇が以前よりも疲れやすくなり、演奏を長く続けるのが難しくなるケースもあります。これは装置と楽器に唇が挟まれ、血流が悪くなってしまうためです。個人差はありますが、長時間の演奏が難しい場合には、使用する装置にも配慮が必要となります。
2-3.楽器によっては治療の効果に影響することも
矯正装置によって以前よりも楽器が吹きにくくなることはあるものの、ほとんどの管楽器については演奏による治療への影響はありません。
ただクラリネットやサックスなどのシングルリード楽器については、出っ歯や開咬(かいこう)の治療に影響を与えやすいため、主治医とよく相談しながら治療を進めましょう。
※シングルリード楽器:マウスピースにリードを1枚装着し、その振動によって音を出す楽器
※開咬(かいこう):奥歯で噛んだ時に前歯が噛み合わない歯並び
3.部活動をしている人におすすめの矯正治療
部活動をしながら矯正治療を行う一番の気がかりは、「治療前と同様のパフォーマンスを維持できるか」という点です。ただこれまで述べてきたように、一般的によく用いられる表側矯正(歯の表面に装置をつける矯正)では、部活動を行ううえで様々な配慮が必要となります。
一方で近年は表側矯正のほかにも、新たな治療法や装置がいくつも誕生しています。矯正治療をしながらでもこれまでと同じように部活動やスポーツに集中したい方は、以下のような矯正装置を検討してみるのもよいでしょう。
3-1.マウスピース矯正
マウスピース矯正では、プラスチック製の薄いマウスピースの装着、交換を繰り返しながら歯並びを治していきます。一般的なブラケット装置のような出っ張りがないため、装着しても違和感がほとんどないほか、装置によるケガの心配もありません。
またマウスピースは自分で取り外しができるため、試合や演奏会など“ここぞ”という時には装置を外すこともできます。ただし、マウスピースは基本的に1日20時間以上装着しないと治療の効果がないため、装置を外す際は自己判断ではなく必ず歯科医に相談しましょう。
3-2.裏側(舌側)矯正との併用
裏側(舌側)矯正では、ブラケットやワイヤーを歯の表側でなく、裏側に装着して歯並びを治していきます。治療中でも装置が目立たないことで注目される治療法ですが、部活動やスポーツにおいては装置による唇や頬への違和感やケガなどを軽減できる点がメリットです。
一方で裏側矯正は装置による舌の違和感が強くなるため、人によってはかえって競技に集中できなくなったり、舌をケガする頻度が多くなったりする場合もあります。また管楽器の演奏ではアタックやタンギングなど、舌を用いて演奏する奏法が難しくなります。
そのため部活動をしながらの矯正治療では、競技や楽器の種類に応じて表側矯正と裏側矯正を組み合わせながら治療が進められます。ただこのような方法は治療をする側の歯科医にも高度な技術が必要なため、矯正歯科の専門医または認定医の下で治療を受けることをおすすめします。
4.まとめ
部活動をしながら矯正治療を行ううえで、とくに配慮が必要となるのが唇や頬などのケガです。このような損傷はマウスガードを装着したり、装置にカバーを付けてもらったりするなどして対処することができます。
ただ部活動のパフォーマンスについては、矯正治療によって以前と同等のレベルに保つことが難しくなる場合があります。歯並びの状態や個々の感覚、また競技や楽器の種類によって個人差はありますが、必要に応じてマウスピース矯正や裏側矯正といった治療法を検討してみるのもよいでしょう。