永久歯の生えそろう中学生頃から歯列矯正に適した時期になると言われています。中学生にもなると、学校では部活に熱心に取り組む方も多いことでしょう。部活の中で、吹奏楽部などの音楽系のクラブに所属していて、矯正治療を始めたい場合、気になるのが「楽器の演奏に支障が出ないかどうか」ではないでしょうか。
そこで今回は、楽器演奏を続けながら矯正治療ができるかどうか、できるとすればどのように矯正装置を選べばよいのかについて解説します。
目次
1 どんな楽器の演奏に影響が出やすいか
歯列矯正をするとき、装置をつけていて特に影響が出やすいのは口を使って演奏する楽器です。具体的には、金管楽器(トランペット・ホルン・トロンボーン・ユーフォニウム・チューバ)や木管楽器(フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット・サックス)の2種類があげられます。いずれも慣れればあまり支障は出なくなるものの、慣れるにはしばらく時間がかかるでしょう。
1-1: 金管楽器の場合
マウスピースを使って唇に楽器を押し当て、唇を振動させて吹く金管楽器では、矯正装置の影響が出やすいと考えられます。特に、マウスピースの小さいトランペットやホルンの演奏時は歯に圧力がかかるので口腔内の粘膜が痛くなりやすく、高音が出しづらくなることもあります。
1-2: 木管楽器の場合
リードを加えて音を出す木管楽器には、シングルリードを使う楽器(クラリネット・サックス)とダブルリードを使う楽器(オーボエ・ファゴット)の2種類があります。このうち、シングルリードを使う楽器のほうが歯にかかる圧力が大きいため、シングルリードのほうが矯正装置の影響を受けやすいと考えられます。逆に、ピッコロやフルートはリードやマウスピースを使わないで演奏ができるため、影響が小さいと考えられます。
矯正治療中は演奏がしづらくなるが、しだいに慣れる
特に、矯正治療を始めたばかりのときは、楽器を吹くと唇の粘膜が痛くなったり、粘膜に装置がこすれて口内炎になってしまうこともあります。しかし、個人差はありますが、練習を重ねるうちに少しずつ慣れていくでしょう。慣れるまでの間は、痛みを感じるようならこまめに休憩をしながら練習したり、周りの仲間や顧問の先生に話をして思い切ってしばらく練習を休むのもひとつの方法で
2 矯正治療方法の種類と選び方
矯正治療には、大きく分けて表側矯正・裏側矯正(舌側矯正)・マウスピース矯正の3つの方法があります。それぞれの特色や、楽器を演奏する上で知っておいた方がよい選び方についてもみていきましょう。
2-1: 表側矯正の場合
表側矯正の場合は、演奏中にブラケットが唇にあたって唇の粘膜が痛くなったり、切れてしまったりする可能性があります。そのような場合は、ホワイトワックスと呼ばれる半透明のカバーでブラケットを覆う方法があります。また、歯並びがととのってきたら専用のプロテクターも使えるので、ある程度治療が進んだらプロテクターを利用するのもよいでしょう。
2-2: 裏側矯正(舌側矯正)の場合
裏側矯正(絶息矯正)の場合は、歯の裏側に装置をつけることになるので、楽器演奏への影響は少なくなります。しかし、歯並びの状態や演奏時の舌の位置によって、装置が舌にあたって演奏しづらく感じる方も少なからずいるようです。
表側矯正・裏側矯正の両方に共通して言えることですが、ブラケットは、なるべく薄くて小さく、角の丸いものを選びましょう。セラミックのブラケットは見た目には目立ちにくいものの、ある程度大きさや厚みがあるので、演奏がしづらくなることも考えられます。見た目を重視するか演奏のしやすさを重視するかは、歯科医とよく相談して決めましょう。
2-3: マウスピース矯正の場合
マウスピース型の矯正装置は自分で着脱することができます。そのため、演奏のときだけ外す、ということも可能です。しかし、マウスピースの1日の装着時間がおよそ20時間必要なので、練習時間の長さや頻度にもよりますが、装着時間が短くなるとそれだけ治療期間が通常よりも伸びる可能性があることも考慮に入れたほうがよいでしょう。
2-4: 複数の装置を使い分ける方法もある
「矯正治療中は1種類の装置しかつけてはいけない」などの決まりはありません。複数の装置を使い分けることで、演奏しやすくなることもあります。たとえば、前歯を舌側に、臼歯は表側にブラケットをつければ、マウスピースやリードが口にあたっても違和感が少なくなり痛みも軽減されるでしょう。
歯並びのがたつきが大きい場合は、矯正治療を始めてしばらくはブラケットを使用することになります。しかし、ある程度治療が進んで歯並びが整ってきた段階でマウスピース矯正に切り替えれば、練習中だけ装置を外すことも可能です。そのため、最初はブラケットを使いながらも、将来的にはマウスピース矯正への変更を視野に入れるのもよいでしょう。
3 楽器演奏を続けながら矯正治療を行うときの5つの注意点
「矯正治療もしたいけれど、楽器も続けたい」という方も多いと思います。楽器と矯正治療を両立するには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
3-1: 事前に歯科医とよく相談する
自分の演奏する楽器や練習の頻度、1回あたりの練習時間の長さにより、矯正治療の方針は変わります。たとえば、毎日数時間を練習に費やせる学生と、週末に2~3時間しか練習に充てられない社会人とでは、治療方法は変わってくるでしょう。
矯正治療を受ける前に無料相談を行っている歯科医院も多いので、そこで歯科医とよく相談されることをおすすめします。治療を受ける本人が未成年の場合は、両親や顧問の先生などとも話し合っておくことが必要です。学校あるいは顧問の先生の指導方針によっては、部活で現役の間は矯正治療を禁止されることもあるので、その場合は引退してからもしくは学校を卒業してから治療を始めることも検討しましょう。
3-2: 治療中は練習を中断したほうがよい楽器がある
木管楽器のように、演奏のときにリードを使う楽器は、治療を妨げてしまう可能性があります。特に、クラリネットやサックスは、リードに厚みがあるため、上下の歯の間に上顎前突(出っ歯)や開咬(歯を噛んだときに上下の前歯に隙間があく状態)になりやすくなります。ダブルリードを使用するファゴットやオーボエも、リードを唇で挟み込むことで上下の歯を離してしまうため、矯正治療の効果を減少させてしまうことがあります。
このことから、これらの楽器については、矯正治療中はできれば練習をしばらく控えたほうがよいでしょう。
3-3: 大事な演奏会の前は治療をお休みしたほうがよいことも
矯正装置は、誰でも慣れるのに1ヶ月前後かかります。そのため、コンクールやオーディション、大事な演奏会が控えているときは、矯正治療を始める前であれば開始時期を遅らせ、治療中の場合は一時的に治療をお休みしたほうが無難です。
ただし、いつも矯正装置をつけているのに演奏会などの直前期に急に外してしまうと、今度は装置をつけていない状態に慣れず、本番で力を満足に発揮できないこともありえます。大事な演奏会などに出演する場合は、事前に矯正装置をどうするのか、主治医とよく相談して決めるとよいでしょう。
3-4: 抜歯後は空気が漏れて音が出しづらくなる可能性
抜歯を伴う矯正治療をする場合、抜歯後しばらくは抜歯したところに隙間ができて空気が漏れてしまうので、思うように音が出せないことがあります。そのため、抜歯しばらくは演奏を控えたり、練習時間を減らしたりするほうがよいかもしれません。治療が進んできて抜歯したところの隙間が埋まってきたら、空気の漏れはしだいに減るでしょう。
3-5: 練習の合間の水分補給は水かお茶に
矯正治療が早く進めば、その分早く矯正装置を外すことができます。そのため、歯科医の指示通りに定期的に通院する、ブラケットのほかに顎間ゴムなどの装置を付けなければならない場合は装着時間を守る、食後には歯磨きをする、練習中やその前後の水分補給は水かお茶にしてむし歯のリスクを減らすなどの努力を怠らないことが肝心です。矯正治療は患者さんの協力なくしてはできないものなので、早く歯並びを改善させるためにも、治療には前向きに取り組むようにしましょう。
矯正治療をしながら演奏家として舞台に立っている方は数多くいらっしゃいます。矯正治療をしているが、木管楽器をこれから始めたい」「吹奏楽部で金管楽器を担当しているが、矯正治療を受けたい」とお考え方は、この記事を参考にしてみてください。自分の楽器やライフスタイルに合う矯正治療方法を見つけましょう。