審美を目的とした治療は、自費治療になります。
審美とは、見た目の美しさを重視する治療のことで、病気が原因で治療する訳ではないので保険治療が適応されません。
矯正治療は、基本的に病気を治す治療ではないので自費治療になります。
しかし、いくつかの条件を満たせば保険治療で矯正が可能です。
そこで今回は、保険でできる矯正治療について解説していきます。
目次
1 保険で矯正治療ができる条件
保険で矯正治療をするには、次のような条件が必須です。
・先天性疾患がある
・前歯が3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常
・顎変形症
・指定機関・指定施設での治療
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1-1:先天性疾患がある
先天性疾患とは、生まれつき持っている病気のことです。
先天性疾患が原因で口の中に異常がある場合には、保険で矯正治療が適応されます。
例えば、
・唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)
・ダウン症候群
・筋ジストロフィー
など、厚生労働大臣が定めた特定の疾患で、噛み合わせの異常が発生した場合には保険での矯正治療が可能です。
現在では、59個の先天性疾患が厚生労働大臣により定められています。
保険での矯正治療が対象となる先天性疾患は、日本矯正歯科学会で確認することができます。
1-2:前歯が3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常
前歯の永久歯が3本以上生えてこないのが原因で、噛み合わせが悪い時には保険の矯正治療の対象になります。
ただ、この条件には埋伏歯開窓手術が必要です。
埋伏歯開窓手術とは、窓のように歯茎を長方形に切って、埋まっている永久歯を表に出す手術のことです。
手術では、永久歯が埋まっている部分の歯茎を切開して、歯を表面に出します。
歯を露出させたら、矯正装置を取り付けて、正しい位置まで歯を移動させて歯並びを整えていきます。
1-3:顎変形症
顎変形症とは顎の大きさや形、位置が原因で噛み合わせに問題があったり、顔の形が歪んでいたりする症状のことです。
例えば、「受け口」や「出っ歯」と言われる状態は、顎変形症の代表的な状態です。
保険で矯正治療を行うには、顎変形症の診断と顎矯正手術や骨切り手術といった顎の骨を切る手術が必要になることが条件に含まれています。
1-4:指定医療機関・指定医療施設での治療
保険で矯正治療を受けるにあたって、上記3つのいずれかの条件が当てはまっていることを診査、診断してくれる指定医療機関や指定医療施設を利用しなければいけません。
症状によって、指定医療機関や指定医療施設が次のように変わります。
・先天性疾患がある
・前歯が3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常
の2つ条件は、歯科矯正診断料算定の指定医療機関
・顎関節症
の条件は、顎口腔機能診断算定の指定医療機関で診査、診断をする必要があります。
この指定医療機関は国に診査、診断能力があり、治療が可能なことが許可された歯科医院であることの証明でもあります。
ただ、指定医療機関や指定医療施設以外の歯科医院で治療をする場合には、保険が適応されず自費治療の扱いになります。
住んでいる地域に指定医療機関や指定医療施設があるかは、厚生労働省の地方厚生局から検索することが可能です。
2 保険での矯正治療費は?
矯正治療では一括での支払いや分割、デンタルローンの支払い方法が一般的です。
一方、保険治療では処置のたびに治療費を払うのが基本で、口の中の状態によっては通院回数や治療期間が多いほど、その分の治療費が追加される仕組になります。
自費治療での矯正費用は、約100万円が相場です。
保険治療では治療費が3割負担なので、約30万円の金額で矯正が可能になります。
3 顎変形症の保険治療の流れ
噛み合わせのバランスの悪さや顔が歪んでいる原因が、顎変形症の場合には外科的矯正治療が必要になります。
外科的矯正治療とは、矯正装置で歯並びをキレイにするだけではなく、顎の骨の手術をして噛み合わせを改善していく方法のことです。
外科的矯正治療を行うことで、歯並びの位置の問題以外にも、上下の顎の位置がズレていたり、バランスが悪かったりするケースでも歯並びをキレイにするのが可能になります。
顎関節症の場合には、次のような治療の流れになるのが一般的です。
・診査・診断
・外科手術前矯正
・外科手術
・外科手術後矯正
・保定期間
それぞれの処置について詳しく解説していきます。
3-1:診査・診断
顎関節症の診査・診断は、CT検査やレントゲン検査、顔面の写真などを活用するのが基本です。
CTとは、3次元で骨や歯、神経の位置などを確認することができる機器のことです。
立体的に顎の骨の大きさや形、位置を把握できるので、より具体的に治療計画を立てることが可能で、歯の動きを正確にシミュレーションできるようになります。
3-2:外科手術前矯正
顎変形症の診断後、すぐに外科手術を行うわけではありません。
まずは矯正装置を歯に取り付けて、歯並びを整えていきます。
この時には、外科手術後の顎の位置を予測して歯並びを整えていくので、一時的に歯並びが悪くなり、噛みにくいといった症状がでることがあります。
外科手術前の矯正期間は、約半年~1年が一般的です。
3-3:外科手術
外科手術では、顎の骨の一部を切り取ったり、顎の位置を正しい位置に動かしてチタンという金属のプレートと専用のネジで固定したりする処置を行います。
プレートの装置は、顎の骨が固定した後に除去したり、そのまま残したりするケースがあり、歯科医院によって異なります。
外科手術は、日帰りができません。
約1週間~4週間の入院が必要です。
3-4:外科手術後矯正
外科手術が終わって退院した後には、再び矯正治療を開始します。
外科手術後の矯正の期間は歯の動きによって変わるため、平均の治療期間は約半年~1年になります。
3-5:保定期間
保定期間とは、矯正が完了し歯並びがキレイになった位置で安定させる期間のことです。
歯には、元の位置に戻ろうとする性質があり、矯正が終わったからといって何もせずにいると元の歯並びに戻る可能性が高いです。
歯が元の位置に戻る現象のことを、後戻りと言います。
後戻りを防ぐには、歯を骨に固定させるリテーナーという装置を付ける必要があります。
矯正装置の外してすぐは、リテーナーをほぼ一日中付けているのが基本で、しばらく経ってからは、就寝中だけに装着するというように、徐々に付ける時間が短くなっていきます。
保定期間は、約半年~数年間が一般的です。
ただ、歯が元の位置に戻る性質は一生続くので、リテーナーを付け続けた方が良いという
方針の歯科医院もあります。
そのため、保定期間は歯科医院によって違い、後戻りを防ぐためには、必ず担当医の指示を守るようにしましょう。
4 マウスピース矯正は保険治療が非対称
保険での矯正治療では、ワイヤー矯正を使用するのが一般的です。
ワイヤー矯正とは、金属のワイヤーとブラケット(歯に圧力をかける装置)を歯の表面に固定して歯並びをキレイにする治療法のことです。
ワイヤー装置は、金属のギラギラした感じが目立つので、装着するのを嫌がる方も最近では増えています。
そのため、他人に矯正をしているのがわかりづらく、目立ちにくいマウスピース矯正を希望する方もいます。
ただ、マウスピース矯正の場合には、どのような歯並びであっても自費診療の扱いになり、
外科手術~矯正治療までの費用が自己負担になるのです。
また、歯並びの状態や歯科医院で取り扱っているマウスピースのメーカーによっては、適応できないケースもあります。
5 「指定医療機関」や「指定医療施設」で相談しよう。
矯正治療を保険で行うには、次の4つの条件が必要です。
・先天性疾患がある
・3歯以上の前歯が永久歯萌出不全で起きる咬合異常
・顎変形症
・指定医療機関や指定医療施設での治療
一般的な矯正治療は、病気が原因ではないため自費治療の扱いになります。
しかし、生まれつき持っている病気や顎変形症を患っている場合には、保険での矯正治療が適応になります。
高額な費用が安くなるのは、精神的な負担も減って安心して治療ができるひとつの要因になります。
自身の症状が今回紹介した条件に当てはまる場合には、まず指定医療機関や指定医療施設の歯科医院で相談してみましょう。