長期間の治療が必要となる歯科矯正ですが、もし矯正期間が短くて済む方法があるとしたら、とても魅力的ですよね。
今回は新しい歯科矯正のテクノロジーである「インプラント矯正」について、メリットとデメリットを含めて、その手法をご紹介します。
目次
1 インプラント矯正は強力な歯科矯正方法
インプラント矯正は、従来の矯正に比べて効率的、かつ強力な歯科矯正の手段です。
具体的にどのような施術を行うのか、ご紹介します。
1-1 あごの骨にネジを埋め込んでワイヤーなどで矯正
通常の矯正では、歯同士をワイヤーで結合することで、すべての歯の位置を理想的な場所に修正するという方法が取られていました。
しかし従来の方法では、本来動かしたくない歯も矯正の力によって動いてしまいます。
インプラント矯正は、あごの骨に小さなネジ(アンカースクリュー)を埋め込み、そのネジと強制したい歯をワイヤーで結合する手法を取ります。
このことによって、矯正したい歯に対してのみ力を加えることができ、より強力に矯正が可能になったのです。
インプラント矯正では、より丈夫なあごの骨を利用して歯列矯正を行える上、歯1本ごとにどのような位置に矯正するかの調整ができるようになります。
その結果、より理想的な歯並びを目指すことができるのです。
1-2 埋め込むネジは直径2mm程度
歯列矯正のためにあごの骨に埋め込むネジは、直径2mm、長さ10mm程度のもので、そこまで大きくはありません。
「インプラント」と聞くと、歯がない部分に人工歯を埋め込む手術を想像するかもしれませんが、インプラント矯正で使われるネジはあくまでも矯正手術専用の小さなものです。
それに、人工歯造成と違い、アンカースクリューは矯正治療が終わったら引き抜かれます。
1-3 より強力な矯正効果
矯正効果は非常に高く、従来通りの手法では矯正が難しかった歯列に対してもアプローチを行えます。
あごの骨を起点に歯を引っ張るため、矯正したい歯の位置だけを変えることができます。
また、アンカースクリューは1度埋め込んだら、自分の意思で外すことはできません。
24時間矯正が続くため、より短い時間で効果が表れやすくなります。
加えて、アンカースクリューに対してワイヤーをかける方法次第で、前後、内外、上下と、自由に歯の位置を調整することができるため、従来の方法では矯正が難しいケースや、抜歯しなければ行えなかった矯正も可能になったのです。
2 インプラント矯正のメリット
新たな技術としてのインプラント矯正には、メリットが沢山あります。
2-1 治療期間の短縮
インプラント矯正は、より強力に矯正を行えるため、歯列を整えるのに必要な時間が短縮できる可能性が高まります。
通常の歯科矯正では、1年から3年程度の期間が必要になります。
一方、インプラント矯正であれば、早い人であれば期間は通常の25%、半年程度から1年程度にまで短縮することが可能です。
治療期間が短くなれば、それだけ精神的な負担も軽減することができますし、よりお手軽に、自分の望む歯並びを手に入れることができるようになります。
2-2 狙った歯だけをピンポイントに矯正
通常の歯科矯正の場合、矯正したい歯と他の歯をワイヤーなどで連結・固定することで歯並びを整えていきます。
しかしこの方法だと、動かしたくない歯まで一緒にずれてしまう可能性が高くなります。
また、例えばあごの骨に対して前歯が出過ぎている、いわゆる出っ歯の状態などが極端にひどいと、矯正後の歯列を理想的な位置に配置できないような可能性もあります。
構造上、前歯と奥歯の中間地点に向かって、前歯と奥歯の両方が動くことになってしまい、前歯が内側に引っ込むのと同時に、奥歯が少し手前側にずれてしまうためです。
インプラント矯正であれば、歯列を調整したい歯にだけピンポイントで働きかけることができるため、様々な口周りの悩みを解決することができるのです。
全体的に前方向に出てしまっている歯列を奥側へ戻すことができるほか、前歯を上方向へ引き上げて骨の中に沈める(圧下)ことで、歯茎が見えにくいように矯正するというようなことにも対応できます。
2-3 抜歯しなくても済むケースも
あごの大きさに対して歯が収まらないことで歯並びが悪くなってしまうケースがあります。
こうしたとき、矯正治療のために歯を数本抜いて、あごのサイズに収まる本数に調整してから矯正を行うことで歯並びを整えるという手法があります。
もちろん適切に診療を受けて施術を受けていればダメージは少なく済みますが、健康な歯であれば抜歯しないに越したことはありません。
インプラント矯正では、奥歯をさらに奥のほうへ移動させることもできますので、従来であれば抜歯の必要があった歯列も、抜歯なしで矯正することが可能です。
3 インプラント矯正のデメリット
いいところの多いインプラント矯正ですが、残念ながらデメリットもいくつかあります。
3-1 局部麻酔が必要
インプラントを埋め込む際には、あごの骨にアンカースクリューを埋め込むという手術が必要になります。
このための手術のために、局部麻酔を打って痛みを低減する必要があります。
ただし、近年では技術がさらに向上して、歯茎に対する部分的な表面麻酔のみを行ってアンカースクリューを埋め込む、という方法に変わってきています。
クリニックによって手法が異なる可能性があるため、どのような手術が行われるのかについては、各歯科医院で確認してください。
3-2 ネジ周辺が炎症を起こすことも
通常の歯科矯正であれば存在しないアンカースクリューというパーツがあるため、その周辺の衛生状態は悪くなりやすいという問題があります。
特にアンカースクリューを埋め込んだ周辺の歯茎で雑菌が繁殖すると、歯槽膿漏のように歯茎が膿んで弱くなり、骨にダメージが加わってしまうことも。
そうなると、ネジが脱落しやすくなってしまいます。もちろんネジが抜けると矯正の効果は得られなくなってしまいますし、歯茎に穴が開いた状態になってしまいます。
こうした場合、すぐに担当してくれている歯科医に連絡の上、受診することが必要です。
仮にアンカースクリューが脱落してしまった場合には、再手術が必要なのはもちろんのこと、口内衛生を正常に戻すために、虫歯治療などの別の治療が先に必要になる場合もあります。
インプラント矯正に限らず、矯正治療を行っている場合は、複雑な器具が口内に存在することで磨き残しが生まれたり、食べカスが付着しやすかったりといった問題がありますので、いつも以上にブラッシングなどのケアを念入りに行っていきましょう。
虫歯リスクが低下すれば、ネジが脱落するような炎症リスクは低く抑えることができます。
3-3 オプションとして追加料金がかかることも
インプラント矯正は、通常の歯科矯正よりも特別な技術が必要であり、また手術を行う必要もあるため、クリニックによってはオプション扱いの治療となっています。
これから矯正治療を受けようと考えているクリニックでのインプラント矯正の扱いが、オプションの治療か、それとも同一金額内で対応してくれるものなのかについては、事前の相談で確認しておくようにしましょう。
4 メリットの大きい矯正方法
インプラント矯正は、通常の歯科矯正よりも強力に、短期間で歯列を調節できる技術です。
デメリットもないわけではありませんが、それを計算に加えても、享受できるメリットがかなり大きいと言えるでしょう。
特に、複雑な生え方をしてしまった歯列で従来の矯正術では対応しづらかったような患者さんに対しても、抜歯せずに歯列を整えられる可能性が大幅に増えたという点は、非常に大きなメリットです。
デメリットの中で気を付けたいのは、普通の矯正治療よりも一層口腔衛生を良好に保ったほうがいいという点です。
一度アンカースクリューが脱落してしまうと、再度別の場所に穴を開けてスクリューを埋め込む必要がありますし、口内の炎症状態が収まるまでは矯正治療が中断となる可能性もあるためです。
また、インプラント矯正は、通常の矯正とは異なる技術が要求されます。
インプラント矯正が有償対応となるかだけでなく、インプラント矯正に対応できない歯科クリニックもあるため注意が必要です。
通おうとしている矯正歯科がインプラント矯正に対してどのような治療方針を取っているかについては、事前のチェックを行うようにしましょう。