治療期間が長いと一般的に考えられている矯正治療。実は、治療方法によっては治療期間を短くすることが可能です。この記事では治療期間の長さが気になり、矯正を始められない人のために、期間を短縮できる可能性がある以下の方法や装置を紹介します。
目次
- 1 歯が動く原理と一般的な治療期間
- 1-1 歯はどうやって動くのか?
- 1-2 一般的な治療期間
- 2 マウスピース矯正「オルソパルス(光加速装置)」とは?
- 2-1 オルソパルス(光加速装置)のメカニズム
- 2-2 オルソパルス(光加速装置)の特徴
- 2-2-1 治療期間の短縮
- 2-2-2 自宅で短時間使用するだけ
- 2-2-3 矯正治療の痛みの軽減
- 3 ワイヤー矯正「インプラント矯正」とは?
- 3-1 インプラント矯正の特徴
- 3-1-1 治療期間の短縮
- 3-1-2 抜歯をしない矯正治療が可能
- 3-1-3 手術をしない矯正治療が可能
- 3-1-4 アンカースクリューの埋め込み
- 4 外科的処置を伴う「コルチコトミー」とは?
- 4-1 コルチコトミーの特徴
- 4-1-1 一度切除した骨が強くなる
- 4-1-2 大人の矯正治療に向いている
- 4-1-3 保定装置装着の期間が短縮可能
- 4-1-4 歯が移動するときの違和感や痛みを軽減
- 4-1-5 抜歯しなくてもいい場合がある
- まとめ 矯正の治療期間を短縮してストレスを軽減する
1 歯が動く原理と一般的な治療期間
矯正治療に長い治療期間が必要なのは、骨折で骨がくっつくのに時間がかかるのと同じく、お口のなかの骨に関係しているからです。
歯が動く原理をわかれば、治療期間が長くかかることを理解していただけるでしょう。
1-1 歯はどうやって動くのか?
歯並びを整えるための矯正治療では、歯が骨のなかを移動していくのはご存じの人も多いでしょう。
一定の弱い力が継続的に歯に加わると、その力は歯を支えるクッションのような役割を持つ歯根膜に伝わります。
歯の片側は歯根膜が広がり、もう片側は縮むのですが、クッションと同じで一定の厚さを保つために元に戻ろうとします。
広がった歯根膜は、骨芽細胞の働きを活発にして骨を作り、逆に縮んだほうは破骨細胞によって骨を溶かそうとするのです。
これを繰り返しながら、少しずつ歯が動きます。
このように、身体が持つ「元に戻ろう」とする力を借り、細胞レベルで骨が壊されたり増殖したりを地道に繰り返しながら歯並びは整えられるのです。
無理に強い力をかけても、早く動かずに、歯ぐきや神経にダメージを与え、歯根が溶けて元に戻らないということがあります。
そのため、矯正治療では歯や骨などにダメージを与えることなく、弱い力をかけてゆっくりと歯を移動させることが大切です。
1-2 一般的な治療期間
矯正治療にかかる期間は、歯を抜いて隙間を作って歯を大きく動かす場合は長くなります。
歯が移動する距離によって、骨の破壊と再生を繰り返す時間が変わるため、それぞれの症例によって大きく異なります。
一般的には、マルチブラケット法を装着したワイヤー矯正による奥歯を含む全体の矯正で2~3年程度です。
表側矯正と裏側矯正で、治療期間は変わりません。
マウスピース矯正は、ブラケットを用いる矯正治療よりも少し短くなり、治療範囲によりますが5カ月~2年程度になります。
ここからは一般的な治療期間をより短期間にするための方法や装置を紹介しましょう。
2 マウスピース矯正「オルソパルス(光加速装置)」とは?
オルソパルス(光加速装置)は、マウスピースを用いる矯正治療で歯の移動を加速させることを目的として作られた医療機器です。
矯正治療はしてみたいものの、治療期間が長いことを考えれば踏み切れない人にとって、治療期間の短縮は矯正治療を始める大きなきっかけになるでしょう。
治療期間短縮のメカニズムやメリットを見ていきます。
2-1 オルソパルス(光加速装置)のメカニズム
オルソパルスは2015年にFDA(米国食品医薬品局)で認可されたまだ新しい医療機器です。
オルソパルスは自分自身で口に装着する小さな装置で、遠赤外線を口内に照射することによって細胞を活性化し、治療の促進を図ります。
この治療は「フォトバイオモジュレーション」といわれ、特殊な光が細胞の代謝に影響をおよぼす効果が認められています。
たとえば、矯正治療だけでなく外科的な分野でも細胞の再生成や創傷の早い治癒、痛みの軽減などの利点があります。
2-2 オルソパルス(光加速装置)の特徴
オルソパルスを使用することの最も大きな特徴は、骨細胞の再生成を促すことによる治療期間の短縮ですが、ほかにも特徴がありますので紹介しましょう。
2-2-1 治療期間の短縮
通常はマウスピース矯正で装置は約2週間に一度交換されますが、オルソパルスを使用することで、約1週間で交換できる場合があります。
最大で60%ほどの時間短縮の効果が期待できます。
治療期間が短くなると、治療効果が目に見えやすくなり、矯正治療へのやる気を上げることにつながりやすいものです。
2-2-2 自宅で短時間使用するだけ
治療期間が短くなるとわかっていても、使用方法がむつかしかったり、装着時間が長かったりすれば継続しにくくなりますよね。
オルソパルスは、1日10分装着するだけ。自宅でテレビを見たり音楽を聴いたりしながらの治療が可能です。
2-2-3 矯正治療の痛みの軽減
矯正治療に痛みはつきものですが、オルソパルスの使用によって痛みの軽減効果も期待できます。
3 ワイヤー矯正「インプラント矯正」とは?
ブラケットを装着するワイヤー矯正で行われる「インプラント矯正」はアンカースクリュー矯正とも呼ばれます。
インプラントと聞けば、歯を喪失したときに歯を作る方法を思い浮かべる人が多いでしょう。
原理的には同じで、インプラント矯正はアンカースクリューといわれるネジを骨に埋め込んで歯を動かします。
大きな特徴は短期間の矯正治療を可能にすることです。
ネジは直径1.4~2mm前後で、長さは6~10mmほどの、骨との親和性が高いチタン合金製です。
アンカーとは船が停泊するときに使われる錨のこと。
小さなネジがお口のなかで、錨の役割を果たして、歯を決めた位置に正確に動かすことを可能にしました。
ワイヤー矯正治療は水の上に浮かべられた船がロープにつながれて、お互いに引っ張り合いをしている状況に似ています。
船は近づいていきますが、止まりたいと思った場所で停止するのは困難です。
同じことが矯正治療でもいえます。
ただし、症例によってインプラント矯正が適さない場合がありますので、矯正の専門医に相談することが大切です。
3-1 インプラント矯正の特徴
たとえば、今までの矯正治療では小臼歯を抜歯して前歯を後ろに引っ張るために奥歯と結び合います。
そのとき、前歯だけでなく奥歯も前歯のほうにずれてしまうのです。
インプラント矯正によって固定されたアンカースクリューを使用すれば、奥歯がずれません。
このことによって、さまざまなメリットが生まれますので見ていきましょう。
3-1-1 治療期間の短縮
アンカースクリューを使えば固定が強固になるため、通常の矯正治療よりも前歯を大きく移動できて治療期間が短くなります。
また、今まで二段階にわけて移動させていた歯をまとめて動かせることからも治療期間の短縮が期待できます。
3-1-2 抜歯をしない矯正治療が可能
今までの治療では臼歯を後ろに動かせないとされてきましたが、アンカースクリューでの固定によって移動が可能になりました。
そのため、抜歯をしなければいけないケースでも、歯を抜かずに歯並びを整えられます。
3-1-3 手術をしない矯正治療が可能
骨格性の上顎前突や下顎前突など、手術が必要な矯正治療にインプラント矯正をすることで、症例にもよりますが手術を回避できる場合があります。
3-1-4 アンカースクリューの埋め込み
インプラント矯正には、アンカースクリューを埋めるので、不安になる人もいるのではないでしょうか。
埋め込みは麻酔を使う処置になりますが、痛みや出血もほとんどありません。
処置後、麻酔がきれてくると多少の痛みがあり、ネジの周囲の歯肉や粘膜に違和感がありますが、数日後には慣れてきます。
4 外科的処置を伴う「コルチコトミー」とは?
たとえば、就職のための面接が控えている、結婚式に向けてなど「どうしても短期間で矯正治療を済ませてきれいな歯並びにしたい!」という願いを持つ人も多いでしょう。
矯正治療の原理で説明したように歯が骨を移動していくために、長い時間がかかってしまうのが一般的です。
そこで、骨に直接外科的処置を施して治療期間を短くする矯正治療が「コルチコトミー」です。
コルチコトミーは、歯を移動させる範囲を拡大したり、歯の移動に伴う抵抗を軽減したりするために、歯を支えている歯槽骨の表層にある硬い皮質骨の一部を切除する施術です。
4-1 コルチコトミーの特徴
コルチコトミーは新しい治療方法で、外科的処置は怖いと思われる人もいるでしょう。
そこで、コルチコトミーの特徴を見ていきます。
4-1-1 一度切除した骨は強くなる
骨には傷ついたところが修復したとき、以前よりも強くなるという性質があります。
骨折をした骨が強くなるのも骨の性質によるものです。
コルチコトミーは骨の性質を利用した矯正治療方法といえます。
4-1-2 大人の矯正治療に向いている
矯正治療が大人よりも子どものときに始めたほうがいいといわれるのは、骨が成長して硬くなれば歯が移動しにくい、というのが理由のひとつです。
コルチコトミーで硬い部分を切除すれば、無理な力をかけずに歯を移動できるため、大人の矯正治療がスムーズにできます。
4-1-3 保定装置装着の期間が短縮可
矯正治療は、歯をきれいに整えたあと、再度動かないように保定装置を装着する期間がかかります。
コルチコトミーでは保定装置の装着期間が短縮可能になり、トータルでの治療期間が短縮できるのです。
4-1-4 歯が移動するときの違和感や痛みを軽減
硬い皮質骨を切除するので、歯が移動するときの違和感や痛みが軽減されます。
矯正治療をためらう要因のひとつが痛みや違和感でしょう。
その点でもコルチコトミーは大人の矯正治療にとってメリットといえます。
4-1-5 抜歯しなくてもいい場合がある
従来は抜歯していたケースでもコルチコトミーにすれば、歯を抜かなくてもよい場合があります。
歯槽骨の基底部分を拡大できるからです。反対に縮小させることも可能です。
歯を水平に移動させるだけでなく垂直にも移動できることも大きな特徴といえるでしょう。
まとめ 矯正の治療期間を短縮してストレスを軽減する
矯正の治療方法は日々新しくなっています。
治療期間を短くするための治療方法は、患者さんの治療中の痛みや違和感を軽減することにつながります。
また、歯並びは就職や結婚などの人生における大切なイベントを迎えると、急に気になりだすものです。
そのようなニーズに応えるのが、治療期間を短縮するための矯正治療でしょう。
より早く美しい笑顔を手に入れるために、この記事を参考にして、歯科矯正の専門医に相談してみてくださいね。