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歯並び・噛み合わせと認知症(アルツハイマー病)の意外な関係

1. 噛み合わせとアルツハイマー病

アルツハイマー病のメカニズムについては、現在も国内外で数多く研究が進んでいます。ここではそのなかから、噛み合わせとアルツハイマー病の関連についての研究報告をご紹介しましょう。

1-1. アルツハイマー病とは

アルツハイマー病は1906年にドイツで報告された記憶や思考能力に障害をきたす病気で、近年では高齢者の認知症のなかで最も高い割合を占めています。認知機能や記憶をコントロールする脳の領域に問題が生じることで発症し、記憶力や判断力、コミュニケーション能力などが徐々に失われていくのが特徴です。

 

アルツハイマー病になると脳の中では「アミロイドβ(ベータ)」というタンパク質がたまり、正常な脳の細胞を少しずつ壊していくといわれています。アミロイドβは健康な人の脳にも存在しますが、通常は”脳のゴミ“として分解され、脳の外に排出されます。しかし何らかの原因でこの排出がうまくいかず、アミロイドβがどんどん脳内に蓄積されると、アルツハイマー病の発症につながると考えられています。一方で、アミロイドβが脳内にたまってしまう原因についてはいまだ不明な点も多く、明確な解明には至っていません。

1-2.噛み合わせの悪いとアルツハイマー病になりやすい

「歯が少なかったり、噛み合わせが悪かったりするとアルツハイマー病になりやすい」という説は、実は以前より様々な研究で指摘されていました。この成果に着目し、岡山大学の研究グループが噛み合わせとアルツハイマー病の関連を調べるために次のような実験を行っています。

 

実験ではまず、18匹のラットを噛み合わせが正常なグループと噛み合わせの異常を4週間後に治療したグループ、奥歯を削って噛み合わせに異常をきたしたグループの3つに分類。そしてこれらのグループを8週間飼育したあと、脳の海馬(かいば)という部位を取り出し、アミロイドβの蓄積量を調べています。その結果、噛み合わせに異常のあるグループでは正常なグループよりも3倍ほど多くアミロイドβが増えていることがわかりました。また噛み合わせの異常を治療したグループについては、正常なグループとアミロイドβの量がほぼ変わらないことも確認されています。同研究では噛み合わせの異常により血液中にストレスホルモンが増加することも確認されており、そのストレスの刺激がアミロイドβの増加につながっていると推測しています。

 

以上はまだ研究段階ではあるものの、噛み合わせが悪いことは何らかの形でアルツハイマー病のリスクを高める可能性があることを示しています。さらに矯正治療による噛み合わせの回復がアルツハイマーの改善につながることも期待されるでしょう。

2. まだある!歯並び・噛み合わせが認知症に及ぼす影響

お口のトラブルと認知症の発症との関連については、ほかにも様々な研究によって科学的に立証されたものがあります。そのなかには直接的ではないものの、その根底に歯並びや噛み合わせが関連しているもののありますので、以下にその一部をご紹介していきましょう。

2-1. しっかり噛める人ほど認知症になりにくい

“よく噛むことは脳の活性化につながる”という話を一度は耳にしたことのある人も多いでしょう。実際に食べ物をしっかり噛むことは、次のようなメカニズムによって脳の認知機能にもよい効果をもたらすことがわかっています。

 

歯の根っこの周りは「歯根膜(しこんまく)」という薄い膜で覆われていますが、その歯根膜には触覚や味覚、温度感覚などを敏感にとらえるセンサーが備わっています。食事の際にわずかな異物を察知できるのも、この優秀な歯根膜のセンサーのおかげです。食べ物を噛む際に歯根膜が得る情報は体の他の部位よりもはるかに多いといわれ、その膨大な情報が脳へ送られることで脳の活動を活発にするといわれています。実際にガムを噛んでいる時の脳の状態をMRIで観察した研究においても、ガムを噛む前よりも脳が活性化することが確認されています。また高齢者を対象にした記憶力テストでは、ガムを噛む前後では正答率が20%も高くなるというデータが報告されています。

 

食べ物をしっかり噛むためには、安定した噛み合わせがとても重要になります。よい歯並びや噛み合わせは多くの刺激で脳を活性化し、認知症の予防にも一役買ってくれるでしょう

2-2. 歯の本数と認知症との関係

しっかり噛んで脳を活性化させるためには、自身の歯を多く残すことも大切です。歯の本数と認知症の関係については、これまでにもいくつかの調査結果が「歯が多い人ほど認知症になるリスクが低い」ということを裏づけしています。

 

たとえば65歳以上の高齢者を対象にした調査では、歯の本数が少なくよく噛めない人は、20本以上歯を残している人よりも認知症になるリスクが約2倍も高いことがわかっています。また70歳以上の高齢者の歯の本数を調べた調査においても、健康な人は平均14.9本であるのに対し、認知症の疑いのある人は平均9.4本であったと報告しています。

 

以上の結果は、歯並びや噛み合わせと認知症とを直接結びつけるものではありません。一方で次に注目したいのが、高齢になってからの歯の本数と歯並びの関係です。

 

厚生労働省と日本歯科医師会では、現在までに「80歳になっても20本以上の自分の歯を残そう」という“8020運動”を提唱しています。この8020を達成した人の歯並びを調べた調査では、8020達成者の8割は歯並びが良好であったのに対し、歯並びが悪い人の8020達成率は30%にも満たないことがわかっています。したがって歯並びの悪さが原因で自身の歯を多く失った場合、認知症のリスクを高めてしまう可能性があることも実は否定できないのです。

2-3. “歯周病”もアルツハイマー病の原因に

歯周病はいくつかの全身の病気の発症に関連があることがこれまでにも指摘されていますが、そのうちの1つに先にご紹介したアルツハイマー病があります。アルツハイマー病と歯周病との関係が浮き彫りになる発端となったのは、2013年に発表された「アルツハイマー病の人の脳から歯周病菌が発見された」という研究結果です。それ以後にも同様の報告が多数寄せられるようになり、歯周病がアルツハイマー病の発症にどのように関わっているのかについての研究が進められています。いまだその解明には至っていませんが、一部の研究では歯周病菌の一種がアミロイドβの蓄積に関与していることが指摘されています。

 

歯周病菌は口内のプラーク(細菌の集合体)の中に生息し、セルフケアが不十分であると歯周病になる確率が高くなります。とくに凹凸の多い歯並びでは、歯ブラシの先が細かいすき間まで到達しにくいため磨き残しも多く、歯周病を発症しやすくなります。歯周病はほかにも心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病などの病気の発症にも関与するといわれていますが、歯並びや噛み合わせもこれらの病気と決して無縁とはいえないでしょう。

3. まとめ

アルツハイマー病を含めた認知症の発症には、歯並びや噛み合わせ以外にも様々な要因が関係しています。したがって矯正治療で歯並びを治すことが、認知症を確実に予防するとまではいえません。ただ安定した噛み合わせや正しい歯並びが認知症のリスクを低くする要因の1つになることは確かだといえます。

このように矯正治療には見た目を美しくするだけでなく、体の健康にもよい効果をもたらすこともぜひ心に留めておいてください。

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